木造住宅の未来を考える

 桧枝岐に旅したとき、 周囲の環境に調和する 素敵な建築物に出会いました。
 落とし貫板倉。
 桧枝岐から尾瀬に向かう途中の河原公園にひっそりとたたずむ その姿に木造建築物の明るい未来を見出せます。

サステナブル "デザイン" ゴールのひとつのかたち

 写真の「落とし貫板倉」は 桧枝岐歌舞伎から尾瀬に向かってしばらく走った村のはずれにあります。
 伊南川沿いに建つ「白旗史朗尾瀬写真美術館」の道路向かいの 河原公園にひっそりと佇んでいます。
 落とし貫板倉というのは、板厚にあわせた溝をあらかじめ柱に彫り、 柱と柱の間の溝に沿って板状の貫を上から落とし込み、 構造パネルとして倉など小規模木造建築物を建てる工法をいいます。
 外壁の四隅は柱を使わず、 出隅部で直交する板材を「角型せいろ」のように交互に組み合わせ強度を保ちます。 別名「板倉工法」「落とし壁工法」ともいう。

 いつごろから普及したのか明らかではありませんが、 伝統的構法でありながら構造的にシンプルで 耐震性を保つことができるため 今日においても住宅や倉など 小規模木造建築物に採用実績もあります。
 「中部の木曽川沿いや信州の山間部で多く見られる工法(ウィキペディア)」 と解説されているところから 厳しい自然と経済的制約の中で工夫された合理的工法と思えます。

 ここに展示されている板倉は屋根も柿板(こけらいた)で葺かれ、重しとして川原石、 その転び止めとして半割りの丸太が渡されているのがわかります。 基礎にも川原石が用いられているところも「サステナブル」であり、 SDG建築のお手本といってもよいでしょう。 ただし防火上の観点から注意は必要です。

 筑波大学教授の安藤邦廣さんはこの工法を応用して福島県いわき市に 東日本大震災後の仮設住宅街を設計し、 ぬくもりある居住空間に感動した入居者から「自分の家に帰ってきたみたい」と好評を博しました。
 仮設住宅としての使命を終えた後は板壁をはずし、 場所を変えて新たに住宅構造材として組み立てることによって 部材を余すことなく転用できるといいます。

 どこまでも「持続的発展」を追求した優れたデザインだと私は思います。

2021年 10月

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