2004.6.14

草屋根のこと

茅=かやは屋根を葺く草の総称。
主としてイネ科の多年草で、 よし、かりやす、かるかや、しまがや、ちがや、すすきなどがあり、 麦わら、稲わらは茎の部分を用います。
これらの草が刈り取られ乾燥させて屋根を葺く材料とみなされた時、 はじめて「茅」と呼ばれます。
茅葺き材料としては「すすき」が最も一般的で、 別名「山茅」と呼ばれ 「よし」「あし」など海茅(湖茅=うみがや)と区別されます。
(出典:安藤邦広著「茅葺きの民俗学」)

ここ福島の里山の民家でも山茅で屋根が葺かれています。
今年の早春、茅場に前年に刈り取ったすすきが山積みされた光景に出会いました。
ここでは葺き替え用のすすきを一度に調達するのではなく、 毎年少しずつ集積し、やがて迎える葺き替え時に備えます。
天日で干され乾燥したすすきを民家の屋根裏の 貯蔵場に上げる作業を手伝いました。
そうして蓄えられた何年分かの茅は やがて行われる吹き替え時の出番を待つことになります。

水のこと

こ茅葺き民家の前を水路が流れています。 灌漑水路として利用されていますが こどもたちの格好の遊び場。
このあたりは阿武隈山系の沢水があつまりとても水が豊かなところ。 農家の人たちにとっては 生活を支えるとても大切な水でもあります。

水は冷たく清らか この水の清明さはまわりをとりかこむ 山や森からの贈り物です。
落ち葉でふっくらとした森の地面は 雨水をたっぷりと含んだスポンジのよう。 このおかげで雨水は一気に川に流れ込むことなく 伏流水がじわじわとにじみ出し沢水となり、 山々の無数の沢水が一本の川となって 村の中心を静かに流れていきます。 村には水道がありません。 ほとんどの家がこの沢水や地下水を利用しています。 水脈が豊かで10メートルも掘れば 井戸水が湧き出るそうです。

水が豊かだと、農作物も豊か。 そしてなによりも心が豊かになるのを感じます。

消える共生と共助

茅葺き屋根の家が減った。 葺き材の茅がなくなったからではなく、 維持管理に労力を要するから、と言われています。
茅屋根は寿命が長いよし葺きで50〜60年くらい。 すすきも比較的寿命が長い葺き材とされています。 すすきやよし葺きの1/3の寿命が麦わら葺きの、 その1/3が稲わら葺きの寿命とも言われ、 わら屋根はほぼ10年ごとに総葺き替えが必要、 となります。
この葺き替え作業は村における相互扶助の慣行として行われ、 年中行事として毎年1〜2軒が葺き替えの対象、 となっていたようです。
私が過ごしている民家は建坪40坪くらいですが 屋根面積は、ざっと倍の80坪。 そして、一度に葺き替えた場合は 屋根面積のおよそ5倍から10倍の茅場が必要、 と聞かされただけで 葺き材そのもののボリュームの大きさが想像できます。
林業に見切りをつけ、山を下りた人が増え、 農村でも若い働き手が減り、 過疎化により山村が疲弊しているのは 日本中にある光景ですが、 草屋根を維持する活力も同時に衰えていきました。
古くからある家でも 次第に金属屋根や瓦屋根に葺き替えられ ここ福島の里山でも 草屋根の家は数えるほどです。
かっての日本の建築文化はすなわち農耕文化。
里山の「木と土と草の家」を循環型社会のモデルとして考えていく上では 日本の農林業、特に山を豊かにさせることが 日本の建築文化を豊かにするために欠かせない、 とつくづく思うこの頃です。