木土草

 産業革命以降の平均気温の上昇を1.5度に抑えることで 地球環境の破局的被害を回避できる可能性があるといわれています。

 産業革命が及ぶ以前、 農山村を中心に長いこと日本建築は 木・土・草という、とてもエコロジカルな素材でできていました。

 土地をつき固め石を敷き、その上に木の柱を立て小屋を組む。 屋根は萱(かや)で葺き、壁は土を練り草を伏せて強化した塗り壁です。

 襖や障子など建具には紙が張られますが、これも原料は木や草です。
 今でも和室の床に使われる畳。これも草で編まれています。

 さらには、内外部に塗られる漆や柿渋、ベンガラなどの塗料も 山野の自然素材からできています。

 工業製品で作られることが多くなった今の住まいですが、「自然との共生」という現代風テーマを古来からずっと実践してきたのですね。

湿気とつきあう家

 木と土と草でできた家が、 なぜ長いこと日本の暮らしを支えてきたのでしょうか。

 調達しやすい身近な素材だったことに加え、もう一つ理由があります。 それは日本の夏の過ごし方と関係がありそうです。
 南北に長く、寒暖の差があるものの、日本は雨が降る日の多い国。 そして世界の国の気候と比較して特徴的なのが、湿度の高さ。

 電気がまだ普及しない時代、 「すまいは夏を旨とすべし」とは吉田兼好法師の言葉です。

 厳しい冬の寒さを経験する北国ですら 多湿の夏をどうやって快適に過ごすか・・・
家づくりの大きなテーマでした。

 温帯に位置し周囲を海で囲まれた島国である日本は 雨が多く水資源が豊富です。
 梅雨に代表される長雨は、時として水害をもたらすこともありますが、 水、とりわけ湿度とのつきあいを通じて衣・食・住にわたる日本の文化が 育まれたと言ってもいいと思います。

 暮らしのスタイルにも、 雨や湿気とのつきあい方に対する 作法や工夫がいろいろとあります。

 深い軒の出は日照の調節機能を担うと同時に、雨が室内に入り込むのを防ぎ、 おかげで長雨の時期でも戸を開け放し生活することができました。

 畳は空気中の湿気を取り除く性質があり、 呼吸している材料として、人の皮膚に近い構造をもっており、 暑い夏でもさらりとした感触です。

 土は余分な湿気を吸取る力や熱を蓄える性質を持っています。 空気が乾燥してくると、蓄えた湿気を徐々に吐き出します。 土は外気から蓄えた熱を室内に放射します。 そうした土のもっている性質をうまく家づくりに生かしていました。

 民家の土間に入った瞬間のひんやり感や 座敷に座った時に感じる微風の流れ。

 そのような感覚の背景には自然と共存した 先人たちのさまざまな知恵と工夫の仕掛けがかくされています。 夏は開放的で過しやすかったと想像されますが 冬はどのような過し方だったのでしょうか。
 床からの冷気には厳しいものがあったと思いますが、 障子戸を閉め、火を灯し、薪や炭をエネルギー源として、 部屋全体を暖めるというよりは「防寒」につとめていたのでしょう。
 「衣食住の文化」といいますが、 衣を重ね着をして炉端やこたつで温まっていたものと想像されます。 衣類の素材も自然素材だったことはいうまでもありません。 暑い夏は麻、寒い冬は綿と素材を選んで環境になじんでいたと思われます。

 木と土と草の家、
 これからの家づくりのお手本はかつての日本の家。 日本のコメがおいしいように、 やはり日本の自然素材でつくってゆきたい・・・。

 元来、身近な素材だったこれらの自然材料を使い、 昔ながらの工法で家をつくろうとすると、 かえって値段が高いものになるというのは皮肉なことです。

 西洋文化の中で生まれた住まいの様式が 「インターナショナルスタイル」として 日本に浸透したのは戦後のことで 長い歴史から見ればほんの表層的なことかもしれません。

 日本文化の深層で長いこと風土に育まれた 「木・土・草」の建築文化こそ、 ローカルスタンダードとして受け継いでいくものではないでしょうか。

 現代の住宅でも、木・土・草は住まいの素材として見直してみたい存在です。

そんな「時代先取り」の家づくりの世界にご案内しましょう。